自分自身の治療成績をお示しすることが患者さんへの本当の誠意と確信しています
医療関係者の方へ
自分自身の治療成績をお示しすることが患者さんへの本当の誠意と確信しています
肺は右側に3つ、左側に2つの合計5つの区画(肺葉)が存在します(図1)。肺癌を手術で治癒させるためには、癌が存在する部分をすべて取りきる必要があるというのは当然のことであります。しかし、手術において実際われわれの目で見ても、目に見えないレベルの癌の広がりはわかりません。それゆえ、肺癌に対する標準的な根治手術(直すための手術)は、肺癌のその部分だけを取ってくるのではなく、肺癌が存在するその肺葉と、高い確率で癌がお引越し(転移)をしているリンパ節をとってくると言う方法であります。

肺癌が大きく、ひとつの肺葉を取ってくるだけでは不充分である場合、右側もしくは左側の肺全部をとることを必要とする場合があります(手術の危険性は5~10倍ぐらいに上昇します)。
しかし患者さんの中にはもともと肺活量が少なかったり、心臓などのほかの病気を併せ持っていたりするために、前述したような標準的な手術が不可能と考える場合もあります。そのような場合はリンパ節の切除を少なくしたり、特に肺活量が少ない患者さんには肺癌を含めた肺を部分的に取ったりすることがあります。ただ、このような残った肺の端っこに癌が再発する可能性が若干高いのではないかと考えられています。
手術方法に関してはいろんな医療施設の考え方があって、我々と考え方が一致しない場合がありえます。もし、手術法について多少なりとも疑問が生じ、我々の方法ではなく他の方法でできないだろうかということを思われる患者さんがいらっしゃれば、遠慮なくセカンドオピニオンを取っていただく方針としています。いまや医療は患者さん本人が選ぶ時代であります。患者さんはこのようなことに遠慮される必要はなく、おっしゃっていただければセカンドオピニオン(第2番目の治療方針に対する意見)としてしかるべき施設に紹介しています。もちろんその後に最終的に当院での治療を希望されれば喜んでお引き受け致します。自分の親と思って全力を尽くします。

側方開胸は、ほぼすべての肺がん手術において利用し得る方法です。視野が良いため手術は非常にやりやすいのですが、その反面、肋骨と肋骨の間を、ブラインドを開けるようにして開くため手術後の痛みがあり、特に3ヶ月から半年ぐらい、傷より前のほう(乳頭のしたあたり)がしびれたり、時々いたいとおっしゃったりする患者さんが多いようです。これは肋骨の下縁を走っている肋間神経を圧排したことによる痛みやしびれであると考えています。
胸腔鏡下手術(図2右)
従来の側方開胸(図2、図3左)と比べて、傷が小さいことがお分かりになると思います。側方開胸に比べ、明らかに術後の痛みは少ないと思われ、患者さま方には満足いただいていると思います。しかし、すべての症例にこの小さな傷で手術が可能というわけではありません。手術のやりやすさには個人差があることをご理解ください。肺葉の境界が分かりにくい場合や、血管の走行が通常と違ったり、血管の周りをはがしにくいと考えた場合は開胸手術へ移行します。手術中に、肺と肋骨が高度に癒着(くっついていること)していたり、手術操作中に血管を損傷し出血がひどい場合は、安全を第一に速やかに側方開胸へと移行します。胸腔鏡下の手術は傷が小さいため、胸の中に直接手を挿入できないため、理論上出血に対する対処が遅れるだろうという欠点もあります。我々はできるだけ小さい傷で、従来の開胸法と同じような手術が施行できるよう最大限の努力をするつもりです。
心臓手術でのアプローチ法です。この方法は傷は大きいですが、側方開胸より傷みが少ないようです。上葉切除に適しています。また広い範囲のリンパ節郭清にも適しています。我々の施設は心臓外科を併設していることもあり、このアプローチ法での手術は十分可能です。私もかつて、この方法を好んで試行していました。治療成績も他のアプローチ法と比べ遜色はないようです(櫻木、坂尾、ほか はたして胸骨正中切開アプローチは高侵襲か?平成14年日本外科学会学術集会、京都)
現代医学の考え方では、いまだ残念ではありますが、切除可能と考えられる肺腫瘍に対しては手術による治療が最善の方法と言われています。それゆえ、悪性肺腫瘍だと診断がついていなくても、疑わしい場合は積極的に手術をする事が一般的であると思われます。私のかかわった肺腫瘍、特に肺癌(肺悪性腫瘍)に対する切除成績によると、手術をして肺癌が治りきったと考えられる人が約60%いらっしゃいます(図4)。この成績は、ほかの施設と比べても遜色のない成績です。しかし残りの約40%の患者さんは、せっかく手術をして、痛い思いをしたにもかかわらず、肺癌が再発してきたために亡くなってしまうという現実があるのは事実です。

患者さんには、手術後の顕微鏡による切除した肺やリンパ節の検査で"やはり肺癌であり、リンパ節にも転移しているようだ"などの、病期の進行度を説明するようにしています。私の切除成績でも肺がんが進行しているほど、やはり手術の効果は思わしくありません(図5)。しかし結果がどうあれ患者さんは将来的に、老化現象のひとつとも考えられるこの病気と一生上手に付き合っていく必要があると思います。つまり手術の後もどこかの病院を定期的に受診して、肺癌の再発がないかどうか検査をします。もし、再発してくるようなことがあれば次の治療を考えるということです。
私は、手術を施したすべての患者さんに元気に退院してもらおうと全力を尽くしてきました。ほとんどの患者さんは問題なく退院されるのですが、時々手術をすることによって、問題が発生し、入院期間が長引いたり、一度退院してももう一度入院したりする必要のある患者さんを経験したことがあります。幸い、2003年以来、手術を契機として命を落とされた患者さんは経験していません。しかし、日本全国の肺がん治療成績を見てみた場合、手術を契機として命を落とされる方がゼロになったわけでは決してありません。以下の成績は、私の開胸手術および胸腔鏡手術の合併症の確率です。手術は安全にとりおこなっていますが、このような合併症があり得ることは事実であり、正直に公開することが患者さんやご家族に対する誠意だと信じています。


私の大隅半島での使命は手術を安全にとりおこなうことだけではなく、患者さんがどのような治療を選択するべきかを、現代医学の知識の裏付けのもとに手助けしていくことだと思っています。たとえば、大隅鹿屋病院では、現時点では不可能と思うような治療法(例えば抗がん剤と放射線治療を手術前に組み合わせるような高度な集学的治療)が必要と判断した場合は、患者さんにお話ししたうえで、鹿児島大学に依頼することも辞さないつもりです。鹿屋にいても日本でスタンダードかつ最先端の肺がん診療を目指すつもりです。