大隅鹿屋病院

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心肺停止からの生還

PCPSを用いた体外循環式心肺蘇生(ECPR)について

第似循環器内科 辻 貴裕

はじめに

わが国の院外心肺停止患者は毎10~11万人発症し、このうち心原性心停止が約60%を占めます(約40%が急性冠症候群)(図1)。心原性心停止患者の社会復帰率は高いとされていますが、それでも目撃者のいるケースで6~7%ときわめて低いのが現状です。このような症例に対する専門的な蘇生治療の一つに、人工心肺装置(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)を用いた侵襲的心肺蘇生があり、体外循環式心肺蘇生(extracorporeal  cardiopulmonary  resuscitation:ECPR) と呼ばれています。当科でもこの治療法を積極的に行っており、今回この場をかりて紹介させて頂きます。

PCPS

PCPS とは、経皮的に18Fの脱血用カテーテルを大腿静脈から右心房近傍まで挿入し、15Fの送血用カテーテルを大腿動脈から総腸骨動脈に挿入し、膜型人工肺を接続して、遠心ポンプで1分間に1~6Lの血流が維持できる装置です(図2・3・4)。心肺停止の状態でも数日間循環動態を維持することができます。ECPR の場合は心臓マッサージを行いながらのカテーテル挿入になるため、それなりの経験が必要になります。

合併症としては、出血が最大の問題となります。回路をまわすためには、ヘパリンによる抗凝固療法が必要になり、一方で機械的破砕による血小板の消耗も必発するため、ほとんどの場合輸血が必要になります。

ECPR では、このPCPS を用いて循環動態を維持している間に、急性心筋梗塞や、肺血栓塞栓症などの原因疾患を治療して、自己心拍を安定させPCPS を離脱することを目標とします。

低体温療法

蘇生に成功し心拍が再開するものの脳機能が再開せず社会復帰まで至らない蘇生後脳症も大きな問題です。近年、蘇生後脳症に対する治療として、低体温療法が再び注目を集めています。機序は、脳代謝を抑制することによるアポトーシスの防止、サイトカイン・ラジカル産生の抑制、脳浮腫の抑制などです。2 0 0 2 年にヨーロッパとオーストラリアでのRCT(randomized  controlledtrial)にて有効性が報告され、2 0 0 5 年のAHA/ILCORの心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドラインでは、蘇生後脳症の治療として低体温療法がEBM レベルClass Ⅱa としてはじめて登場しました。

具体的な方法としては、ブランケットやアイスパックを用いて、34℃まで体温を冷やして、1~3日間維持し、その後ゆっくり復温させていく方法がありますが(図5)、なるべく迅速に34℃まで冷やす必要があり、その点で最も早く冷却できるPCPS にはメリットがあります。

合併症としては不整脈、電解質異常、感染症の悪化、高血糖などがあり、これらに対する注意も必要になります。

現在、日本でJ-PULSE-H y po という他施設共同登録調査が進行中であり、中間報告では低体温療法の方が、神経学的機能良好な割合が多く(56% vs34%)、効果が示されています。

SAVE-J研究

以上、PCPS を用いたECPR について述べさせて頂きましたが、2005年のAHA のガイドラインでは、その推奨度はまだClassⅡb です。しかしPCPS に関する報告は日本と台湾に多いのが現状であり、2007年4月から日本で、院外心停止に対するPCPS を用いたECPR の有用性についての多施設共同研究(SAVE-J:Studyof advanced life support for Ventricular fibrillation with Extracorporeal circulationin Japan)が進行中であり、結果が待たれています。中間報告では、1ヶ月後の神経学的良好な割合は、PCPS 群の方が有意に高い結果でした(15・9% vs 0%でP <0.01)(図6)。

忘れられないケース

今から4年前の冬のことですが、今でも忘れられない経験があります。60代の男性の患者さんが、突然の胸痛のため友人に連れられ来院されました。しかし病院の救急外来到着1分前に意識消失。

自分が当直中であり、かけつけたところ患者さんは助手席で心肺停止状態でした。車の中でAED で除細動後、CPR 開始。車から引きずりだし、救急外来へ移動。しかし心電図モニターはVf のままであり、再度電気的除細動を行うもすぐにVf が再発。薬物追加するも効果なく、心臓マッサージを結局約30分継続したまま、心カテ室でPCPS を挿入しました。心臓カテーテル検査にてLAD#6 の完全閉塞を認め、心筋梗塞と診断。カテーテル治療を行い、ステント植え込みにて0%狭窄まで改善。その後、数時間後より意識レベルが徐々に改善し、約2週間で全く後遺症なく元気に退院されました。この経験後、やり方によっては助かる心肺停止の患者さんが存在するのだと実感し、地元の大隅半島でもこのような医療を提供したいという強い思いが生まれました。

当院での現状

当院では、毎日のように心肺停止の患者さんが搬送されてこられますが、みなさんがPCPS の適応があるわけではありません。国際的な基準はありませんが、わが国の多施設共同研究SAVE-J の導入基準を表1に示します。当科でもほぼ同様の基準で対応しておりますが、逆にいうと、救急隊が現場到着時に心静止であったり、75歳以上であった場合はすでに適応外ということになります。

またPCPS の導入はできるだけ早く行うべきですが、PCPS の回路の準備(プライミング)に10分ほどの時間を要します。当科では、救急隊からの第一報でPCPS の適応があると判断された場合は、その時点で心カテのスタッフをコールして、たとえ空振りに終わってでもPCPS の準備を行うシステムを確立しています。

実際には、救急外来到着後、心エコーにて心タンポナーデでないことを確認し、心臓マッサージを継続しながら心カテ室に移動して、大腿動静脈からPCPS の挿入を行います。PCPS のポンプが回りはじめたところでようやく心臓マッサージをやめることになります。その後、心臓カテーテルによる冠動脈造影を行い、急性心筋梗塞であれば引き続きカテーテル治療(PCI)を行い、異常がなかった場合は、肺動脈造影を行い、肺血栓塞栓症であれば血栓溶解療法を行います。いずれも異常がなかった場合は、頭部、胸腹部のCTをとって、出血性疾患のチェックを行います。くも膜下出血や大動脈疾患(大動脈解離、大動脈瘤破裂)であった場合は、ほとんど治療は断念することになります。

これらの出血性疾患にはPCPS は本来は禁忌です。しかしそれをPCPS 導入前に心臓マッサージをしながらCT などで確かめる時間的余裕はありません。出血性疾患による心肺停止は何をしてもまず救命できる可能性はほとんどないため、助かる可能性の高い疾患の治療を優先しています。

当科での成績

私は5年前から一人で心臓マッサージを行いながらのPCPS 挿入をさせてもらえるようになりましたが、この間にこの方法で全く後遺症なく退院された患者さんは4名(AMI が2 人、肺血栓塞栓症が2人)です。大隅鹿屋病院に勤務してからは、2年間で12人の患者さんにECPR を施行致しました。内訳は、AMI が2名、肺血栓塞栓症が3名、肥大型心筋症による心室細動が2名、重症大動脈弁狭窄症によるショックが1名、心筋炎が1名、くも膜下出血が1名、大動脈解離が2名となっております。このうち、PCPS から循環動態的に離脱できたのは6名で、大きな後遺症なく無事退院された患者さんは2人(いずれも肺血栓塞栓症)でした。残りの4名は残念ながら出血などの合併症で亡くなられました。

最後に

ECPR によって助かる患者さんを増やすには、市民のバイスタンダーCPR がとても重要です。当院では、心肺蘇生を普及させる会や医療講演などでその重要性を広めておりますが、まだまだ浸透してしきれていないのが現状です。都会なら助かったけど、田舎だったから駄目だったなんてことは、大隅半島出身の自分には我慢できません。突然の心肺停止からでも奇跡的に助かる患者さんが、一人でも多く増えるように、これからもいろんな方々と協力しながら頑張っていきたいと思っております。