大隅鹿屋病院

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医療関係者の方へ

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専門性を基盤に医療連携を推進

顎口腔領域における二次的医療機関としての役割

歯科口腔外科 金本 政樹

全ての病院(医院)がそこを受診する全ての患者さまの全ての治療を提供できる訳ではないことは皆さん周知であろうと思います。それぞれの病院には得手不得手な分野があり、医師個人にも得意な分野とそうでない分野があります。都会の方になると全ての診療科を網羅する総合病院はたくさんありますが、地方に行くとそのような病院が一つとして存在しないということはこの大隅半島を見ても例外ではありません。

歯科領域に於いても実はその内容は多岐に渡っており、大学歯学部付属病院を受診すると、診療科として予防歯科・保存科(う歯の修復や歯髄治療)・補綴科(義歯やブリッジなど)・矯正科(歯並び)・口腔外科等いくつもの科に細分化されています。私共はそこの口腔外科という主に口腔領域の手術を担当する分野で研鑽を積み、九州大学病院顎顔面口腔外科より出向という形で1999年(平成11年)に当院の歯科口腔外科は開設しました。

薩摩半島の方には鹿児島大学病院・鹿児島市立病院・今給黎総合病院・南風病院など顎顔面および口腔外科領域を扱う診療科(歯科口腔外科)を有する病院が数箇所あります。しかし神奈川県とほぼ同面積である大隅半島には当院が唯一の存在であり、この地域の二次的医療機関としての期待・要望に応えるべく日々毎日の診療に取り組んでいます。 当科の診療機能としてまず3つの大きな柱を考えています。

①他院からの紹介患者さまの治療、②顔面・口腔領域の外傷(事故など)における緊急対応、③入院患者さまの歯科治療です。それぞれにつきもう少し具体的にお話したいと思います。

他院からの紹介患者さまの治療

現在大隅半島には110軒ほどの開業歯科医院があります(鹿屋市48軒)。歯や顎の骨に起因する疾患でその歯科医院での治療が困難な場合に二次的医療機関として当科へご紹介頂いています。

開設して12年が経ち、今ではそのうち100軒以上の歯科医院の先生方からご紹介頂けるようになりました。現在、新患の患者さまの約50%が他院からの紹介患者さまであり、この12年間毎年増加している状態です(平成21年度他院からの紹介による新患患者数674人/年)。紹介患者さまの内訳としては地域の歯科医院からの紹介患者さまが約7割を占めますが、外科や整形外科・耳鼻咽喉科などの医科の開業されている先生方からの紹介患者さまも多く見受けられます。

地域別には鹿屋市内・肝属・曽於を始め遠方では都城市や串間市からも患者さまを紹介頂き、この地域における期待とその責任の重さを感じています。今年3月には単月としては当科開設後最多となる86人の患者さま(院内紹介を除く)のご紹介を頂き、治療にあたらせて頂くことが出来ました。(内訳:歯科医院71件、耳鼻咽喉科4件、内科3件、整形外科2件、鹿児島大学2件、外科1件、脳神経外科1件、精神科1件、小児科1件)今後もご紹介頂きました患者さまの経過や治療後などの情報を細かに案内できるよう心がけていきたいと思います。

顔面・口腔領域の外傷(事故など)における緊急対応

当院は救急指定病院です。その為、顎顔面領域においてその初期治療が必要と判断された場合には当院ERもしくは時間外外来にて全身精査後すぐに対応できるように取り組んでいます。

受傷原因としては交通事故やケンカによるものがほとんどですが、大隅の特徴として大動物(牛・豚など)による畜産業の患者さまの中顔面骨折を4例ほど経験しております。

顔面骨骨折の手術(観血的整復固定術)には固定器具として従来よりチタン製のミニプレートやマイクロプレートが使用されてきましたが、近年そのほとんどが吸収性の素材(PLLA:ポリL- 乳酸)で作られたプレート・スクリューシステムに替わってきています。PLLA は約半年~1年で加水分解により消失し、為害作用もほとんどなくプレート除去の二次手術が不要になります。当科でも8年前より導入し、他施設とほぼかわらない臨床実績を収めています。

顎顔面領域の損傷はその構成される臓器の複雑性から脳神経外科・耳鼻咽喉科・眼科等の先生による専門的な診察・治療が必要となることも多く、可及的に早く近隣の先生方へコンサルトしている状態です(常勤医がいない為)。交通外傷など頭蓋内損傷にて脳神経外科での治療が優先される場合は入院先への病院へ往診を行い、病状安定後に当科へ転院の上、手術を行っております。連携する先生方にはいつも丁寧なご助言等頂き大変感謝しております。また休日や夜間の歯痛等に関するお問い合わせについては歯科医師会の当番医の方を受診して頂くようお願いしております。

昨年度診療実績(2009・4・1~2010・3・31当科入院患者)顔面骨骨折19例(下顎骨骨折11例、上顎骨骨折3例、頬骨骨折1例、眼窩底骨折1例、その他鼻骨・歯槽骨など)

入院患者さまの歯科治療

当院の特性として抗血小板薬や抗凝固薬を服薬されている外来患者さまが多くみられます。その為、そのようなお薬を内服されている患者さまの抜歯を行う頻度が開業歯科医の先生に比べて非常に多いことが特徴だと思います。日本循環器学会や日本歯科麻酔学会が提唱するガイドラインに沿い、基本的に抗血小板薬や抗凝固薬は休薬することなく抜歯をしています。(同薬内服下での抜歯後出血はまず起きません。)内科・循環器内科など当院入院中の患者さまの一般歯科治療は継続して行いますが、退院後はかかりつけの歯科医院の方で診療情報提供持参の上、引き継ぐようにしております。

当科で治療を行った患者さまの一部を供覧します。

症例1:患者66歳女性

診断:睡眠時無呼吸症候群 鹿児島厚生連病院(呼吸器内科)から紹介。中途覚醒・夜間頻尿・熟睡感の欠如を伴う重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断されスリープスプリントの作製依頼。

治療前の睡眠ポリグラフ検査結果
  • 無呼吸数:121回
  • 低呼吸数:138回
  • 無呼吸低呼吸指数(AHI):37・2回/時
  • 睡眠時最低酸素飽和度59%、
  • 最大無呼吸時間93秒
上下顎一体型のスリープスプリントを約5ヶ月装着後の再評価
  • 無呼吸数:121→28回
  • 低呼吸数:138→59回
  • A H I:37・2→13回/時

と無呼吸・低呼吸残存あるも顕著な改善を認めたとの報告を紹介元より連絡を頂きました。

症例2:患者19歳男性

主訴:
右側顎下部の無痛性腫脹

志布志市の歯科医院より紹介受診。各種検査後に顎下部海綿状血管腫の診断を得、全身麻酔下に腫瘍切除術施行。術後一過性の生じた顔面神経下顎枝領域の不完全麻痺も改善、再発なく経過良好です。

症例3:患者47歳男性

主訴:
下顎前歯部骨体部の膨隆

鹿屋市内の歯科医院より紹介受診。生検後にエナメル上皮腫(歯原性腫瘍・線維形成型)の診断を得、全身麻酔下に腫瘍切除(下顎骨部分切除)術および腸骨即時再建術施行。術後オトガイ神経領域の知覚異常および腸骨採取に伴う歩行障害も認めず、移植した腸骨の生着も良好です。

最近の外来患者さまの兆候として他施設同様に顎関節症の患者さまが増加しているようです。顎運動時の疼痛や関節雑音に始まり、場合によっては開口障害(closedlock など)を来たす疾患です。また高齢化が進む中で脳梗塞や老人性痴呆を有した患者さまの習慣性顎関節脱臼に遭遇することが珍しくありません。施設入所されている患者さまの場合に脱臼したままの期間が長く整復が困難な場合もあります。患者さま本人とコミュニケーションがとれず、ご家族に治療方針の同意を得ることが多いのですが、高齢で全身麻酔下に手術を行う場合に合併症やそのリスク等、毎回非常に悩んでしまいます。最近はインターネットの普及により事前に患者さまが疾病に対するある程度の情報を修得して受診されることも多いようです。われわれ医療人としてもさらに多くの知識や情報に耳を傾け続ける姿勢が不可欠となっています。この地域の先生方には専門分野にとらわれずに今まで以上にご指導頂ければと切に感じています。

また、本年度からの新たな取り組みとして大隅半島における障害者の歯科治療のシステム化を考えています。精神疾患や病気・事故などによりなかなか一般の歯科医院での対応が困難な患者さまの歯科治療および口腔ケアをいかに円滑に行うかのシステムを構築しようとする試みです。薩摩半島では鹿児島大学および鹿児島市立病院にて対応されていますが、大隅半島在住の患者さまも同院に行かれているのが現状と思います。ご病気から本人だけでの通院治療は難しく必ず付き添いの家族や施設職員の同伴がかかせず、その肉体的・経済的負担も大きいものと思います。医療側の問題として障害を有する患者さまの歯科治療の場合、健常者に比べ

  1. なかなか上手にコミュニケーションが取れない故、どうしても長い治療時間を必要とすること
  2. 予測不能な行動に対し、どうしてもマンパワーが必要となり人員不足となること
  3. 時間・人手を含めた治療に対し不十分な診療報酬、

などがありどうしても積極的に受け入れれない現状があります。

もちろん、当科だけでの発案で大隅半島の患者さますべてを受け入れることは現実不可能ですので、鹿児島県の行政事業および歯科医師会との協力は必要不可欠となります。地域医療から取り残された領域へ微力ながら参入することに対し、院長と事務長からも快諾を頂き、現在、鹿児島県保険福祉部の担当者と協議中で来年から徐々に実働できるよう準備段階にあることをご報告しておきます。

私自身の話になりますが、平成10年に1年間だけではありますが鹿児島大学病院の口腔顎顔面外科で研鑽を積む機会がありました。唇顎口蓋裂の一貫治療や口腔癌・顎変形症の手術・治療を主とする教室に在籍し、当時大隅半島から受診される患者さまが非常に多いことを実感していました。全ての患者さまを、とはいきませんが以前のように錦江湾を越え、鹿児島市内まで受診される患者さまが一人でも少なくなるようとの精神でこの8年間突き進んで参りましたが、まだまだ未熟ゆえ自分の力のなさを痛感することも多いのが現状です。井戸院長がいつも言われますが、歯科口腔外科の一診療科長としても大学病院始め都会の大病院に負けないレベルの医療をこの大隅の地で提供できるようこれまで以上に地域の先生方との連携を密にして診療に携わっていきたいと考えています。これからも宜しくお願い致します。