64列冠動脈造影CTは冠動脈造影の代替となるか?
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64列冠動脈造影CTは冠動脈造影の代替となるか?
トレッドミル負荷心電図での虚血性変化の検出、負荷心筋シンチの血流欠損、心臓エコーで壁運動異常が、冠動脈狭窄を診断する伝統的な非侵襲的検査である。これらの検査でも診断がつかないか、または強く冠動脈狭窄が疑われた場合、次に冠動脈造影(coronary angiography:CAG)がこれまで行われてきたが、CAGの安全性と患者さんの費用負担の改善(表1)を目的として、64列冠動脈造影CT(64-slice coronary CT angiography:64-slice CCTA)を導入される病院が多くなってきた。
2008年6月より当院においても64-slice CCTAを導入した。これまで平均50-60例/月のペースで検査を行ったが、CAGと比較して、特異度がやや低い(CAGでは治療対象とならない狭窄が64-slice CCTAでは有意狭窄に見えることがある。つまり濡れ衣がやや多い)、高度石灰化があるとアーチファクトのため評価できないといった弱点はあるが、症例を限定すれば大変有用である。

Julie M (1 )らの多施設共同試験での報告は、64-slice CCTAの冠動脈疾患の疑いのある患者で1.5mm以上の血管径+カルシウムスコアーが600以下の291例で50%以上の狭窄の検出、除外に対する患者ごとの診断精度は、感度85%、特異度90%、陽性的中率91%、陰性的中率83%であった。その後血行再建術を受けた患者を同定する能力は、CAGとほぼ同等であった。また疾患重症度も高い相関が認められた(r=0.811、95%CI 0.76~0.84)(図2,5)。この論文の結論は、閉塞性冠動脈病変は正確に同定されるが、従来のCAGの代替法として用いるには、陽性、陰性的中度が不十分と結論づけられている。
そもそもReal worldでは冠動脈に高度石灰化がある患者は少なくない事より、64-slice CCTAがCAGの代替となりえないのは、論文を読まなくてもすぐに直感できた。さらに64-slice CCTAは予後を改善するevidenceがない上に、不必要な追加診断検査、冠動脈形成術、偶然見つかった腫瘍の生検などを生じると報告されている(2)。しかしながらアメリカでは年26%心臓CT件数が増加しているという。この理由は、心臓カテーテル検査と比較して心臓CTが安全であるからである(2)。CAGは確率として大変低いが、重篤な合併症を引き起こす事がある(表2)。またCAGの検査プラス冠動脈形成術が原因の無症候性脳梗塞の発症率は約15% (3,4)であったとの報告もある。Low volume Operatorでは、合併症リスクも上がると言われる。これと比較しCCTAは、検査施行者、患者の負担は軽く、腎不全(糖尿病患者でクレアチニンが2.0以上)、造影剤アレルギー、被爆(若年者の場合)を注意すればよい。
心筋虚血(冠動脈有意狭窄)が証明された患者は、心筋虚血のない患者より、総死亡、心臓死、心筋梗塞の発生は高く(5,6,7)、胸部症状のないいわゆる無症候性心筋虚血でも同様であった(8)。また心筋シンチで虚血が検出できなかった例では、将来心血管イベントが少なく予後も良いと言われている(7,9)。心筋虚血が心室期外収縮や心室細動、突然死のリスクになることもすでに確立(10,11,12)されており、虚血性心疾患患者の突然死の多くは、急性心筋梗塞ではなく、35-80%は一過性の急性虚血が重要なトリガーとなった心室性不整脈が原因と言われている(13,14,15)。

2004年には全米で年間100万件の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が施行され、その85%は待機的であった。急性虚血性心疾患の治療においてPCIの有効性は確立されているものの、安定狭心症に対する死亡率、心筋梗塞新規発症率の抑制効果については不明であった。これを検証する目的でCOURAGE試験(2287例が登録、薬物治療のみ1138例 薬物+PCIが1149例)が行われた。安定狭心症患者(少なくともepicardial coronary arteryの1枝病変以上で70%以上の狭窄)で虚血を証明されたかまたは少なくとも1枝病変以上で80%以上の狭窄があり、虚血の証明はないが、典型的な狭心症症状があるに対するPCI治療は、薬物治療単独(抗血小板薬、徐放性β遮断薬、Ca拮抗剤、亜硝酸薬、ACE阻害薬、ARB、脂質異常症治療薬)と比較して、少なくとも約5-6年間のQuality of lifeを変えるも、生命予後を変えないと報告(16,17)があった(図1)。この理由として急性冠症候群の原因であるvulnerable plaquesの破裂は、大抵は高度狭窄になる前に引き起こされるからであると考察されてある。この試験の結果は、安定狭心症患者の多くは、まず薬物療法を試みることの有効性と安全性を示した。この結果から、繊細な病歴聴取、負荷心電図、心筋シンチ、心臓エコー、冠動脈CTで安定狭心症と診断できれば、CAG+PCIを施行せずに、薬物治療のみで対応可能である可能性を示している。尚この際の注意点は、COURAGE試験にも考察されているが、薬物治療のみされた患者の約三分の一は、胸痛のコントロールと急性冠症候群のため結局PCIを受けていたことである。また冠動脈造影の30-70%狭窄は、fractional flow reverse(FFR)と統計的に有意に一致しなかった報告(19)があり、64-slice CCTA で有意狭窄でないと判定した場合に、心筋虚血を見逃す可能性があり、負荷心電図、心筋シンチを施行しないで狭心症を評価した場合は、より注意深いfollowが必要である。
COURAGE試験の結果解釈においても注意が必要である。PCI治療群にほとんど薬剤溶出性stentが使用されていなかったこと、follow up期間が平均4.6年で長くないこと、17の無作為化試験のメタ解析の報告(18)では、安定狭心症において、PCI+薬物治療が薬物治療単独よりの長期予後を改善する可能性を報告している。安定狭心症に対するPCI治療の有効性は今後も議論が続くところである。
64-slice CCTAの使用法は、現在各施設でまちまちであるが、2008 AHAのguide lineでは、特異度が低いこと、被爆の懸念から、事前確立が低い患者(狭心症ではまずなさそうな患者)と狭心症がほぼ間違いない患者を対象に検査することはrecommendされていない。つまり単にスクリーニング目的で64-slice CCTAを施行するな、狭心症が強く疑われた場合は直接CAGをしろということである。この声明はもっともであるが、CAG検査前に64-slice CCTAを行った結果、LMT 入口部の狭窄(図5)、冠動脈起始異常(図6)が事前に確認でき、CAGがより安全に行えたケースを経験している。


