胃の中の怖い話

消化器内科明瀬 英毅

皆さまはピロリ菌という名前は聞かれたことがあると思います。ピロリ菌とは何でしょう。ピロリ菌は胃の粘膜に生息している細菌です。胃には強い酸(胃液)があるため、昔から細菌はいないと考えられていました。それが30数年前にオーストリアの医師が胃の中にピロリ菌を発見して、自分でその細菌を飲用し自分の胃にもピロリ菌が育つことを証明しました。この情熱はすごいですね。その後の研究にてピロリ菌が胃炎、胃潰瘍や胃癌などのほとんどの胃の病気に深くかかわっていることが分かってきました。

それではピロリ菌はどのようにして感染するのでしょう。感染経路はまだはっきりとわかっていませんが、口を介した感染(経口感染)が大部分であろうと考えられています。成人になってからの感染はまれです。我々の世代(あと10日で70歳です)の人たちの感染率は80%ですが、衛生状態が整った現代ではピロリ菌の感染率は著しく低下しており、あまり神経質になる必要はないでしょう。

最初ピロリ菌に感染した場合は胃に炎症を起こしますが、この際は殆どの人は症状を自覚しませんが、その後胃の中での炎症が長く続き胃粘膜の胃酸などを分泌する組織が消失した状態(委縮性胃炎)になります。その一部の患者さまから胃癌が発生します。また胃もたれ等の胃の運動異常や胃潰瘍、十二指腸潰瘍等も引き起こします。実際ピロリ菌を治療すると胃もたれがよくなったと感謝されることも多々あります。胃潰瘍、十二指腸潰瘍の再発も非常に少なくなります。

ピロリ菌に感染している人はみんな除菌したほうがいいのですかとよく質問されます。基本的にはすべての方が除菌された方がよいと思います。以前はあまり高齢の方は無理ではと思っていましたが薬の副作用は年齢によっても変わりないとの報告もあり、最近は「いつまでも元気で」の観点から希望される方には治療を受けてもらっています。

ある調査にて10年間でピロリ菌に感染していない人からの胃癌発生は0%に比しピロリ菌に感染している人では3%だったと報告されています。また他の調査にてピロリ菌を治療することにより胃癌を3/1に(20代のつまり萎縮性変化のあまり進んでない人は0に)減らせるとあります。

最後に治療についてですが現在日本には3,500万人のピロリ菌感染者がいます。この方々に対し昨年ピロリ菌治療の保険適用が可能となりました。ピロリ菌治療希望の方はまず医療機関にて胃カメラを受けていただき、ピロリ菌感染の疑いのある人にピロリ菌の検査を行い陽性の方に治療という手順になります。勿論、自費では胃カメラなしで血液検査等でも、いるかいないかは判断できます。私もピロリ菌陽性でしたので自分でピロリ菌治療しました。それから胃の調子は良好で仕事に励んでいます。これからは胃カメラで癌を見つけるより癌にならないように予防する時代にはいってきているのではと感じています。皆さまもこの際、胃の病気にならないようにピロリ菌の検査を受けられてはいかがでしょうか。