心臓病について
心臓血管外科峰松 紀年
はじめに
「近所の人が突然胸が苦しくなって救急車で病院に運ばれた。心臓の血管がつまっていた。」こういう「心臓病の急な発作」についてどなたも耳にされたことがあると思います。また、テレビや新聞などで狭心症、心筋梗塞、心不全などの心臓の病気の名前をよくみかけます。心臓病は生活習慣、社会環境の変化とともに確実に増加しています。心臓病で亡くなる方も年々増え続け、悪性腫瘍(がん)に次いで死亡原因の第2位となっています。心臓病は発見、治療の開始のわずかなおくれが命とりになることのある病気です。実際に「ポックリ病」と言われていた突然死の6~7割が心臓病によるものなのです。「心臓病」に対しても「がん」と同様に「早期発見、早期治療」が最も大切なことです。
1. 心臓のはたらき
心臓は胸の中央からすこし左寄りのところに位置し、人の握りこぶしよりやや大きい臓器です。生まれてからその命が絶えるまで休みなく働き続けています。心臓は全身に血液を送りだすポンプの役割をしています。血液は全身に酸素や栄養分を供給しています。心臓は一回の拍動では約80mlの血液を拍出し、1分間には約5Lの血液を搬出します。一日では心臓は約10万回もの拍動を繰り返します。これが一生続くわけですので、心臓は非常に働き者だということが分かります。
2. 心臓の構成
- 心臓は主に筋肉でできています。全身に血液を送り出す部屋(左心室)、肺に血液を送り出す部屋(右心室)がポンプ機能の主体です。この筋肉が収縮、拡張をくり返すことにより中にたまった血液を送り出すのです。
- 心臓には、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁と呼ばれる4つの弁膜があります。これらは心臓にある4つの部屋を分割しています。
- 心臓の拍動回数をコントロールしているのが「刺激伝導系」と呼ばれる特殊な心筋です。運動の程度に合わせて心拍数を上下させます。
- 心臓そのものにもエネルギー源である酸素と栄養分が必要です。この酸素と栄養分をたっぷり含んだ血液を心臓自身に流す血管のことを「冠動脈」といいます。心臓を包み込むように分布しており、王冠のようにみえることから「冠動脈」と名づけられています。冠動脈は左前下行枝、左回旋枝、右冠動脈の3本の大きな枝からできています。
3. 心臓病の症状
心臓の構成物である4つに異常を来たすと心臓病ということになります。心臓に病気が起こった時に自分で感じる症状としては、1)動悸、2)息切れ・息苦しさ、3)胸の圧迫感・痛み、4)顔や手足のむくみ、5)めまい・意識消失などが挙げられます。
「すぐおさまるから大したことはない。」と軽く考えていても、重い心臓病のはじまりの症状であることがあります。早めにかかりつけの医師に相談し、心臓病かもしれないといわれたら専門医を紹介してもらうのが一番良い方法だと思います。正確で詳しい診断ができれば心臓病の多くは上手に治療できます。「早期発見・早期治療」が最も大切です。胸の圧迫感・痛みは心臓病の典型的な症状です。「心臓に流れる血液、酸素が足りない。働くのが苦しいよ。」という警告と考えてください。原因となる心臓病には、狭心症、心筋梗塞、弁膜症、心筋症、不整脈などがあります。
- 狭心症の症状
最も頻度の多いのは「狭心症」(冠動脈が部分的に狭くなる病気)です。症状を感じる場所で多いのは「胸の中央部からみぞおち」です。「心臓は左側にあるから左胸に起こる。」と思われているかもしれませんが、これは間違いです。同時に肩、腕、首、背中、奥歯、あごなどにしびれや痛みが起こる人もいます。さまざまな症状があり、そのためマッサージに行ったり、虫歯の治療をしたり、胃薬を飲んだりして狭心症の治療が遅れてしまう場合もあります。
狭心症が続く時間は30秒~5分間位です。数分で治まるため、たいしたことはないと思われる方が大変多くおられます。症状のおきるきっかけは次のような場合があります。
- 【急に負担になる運動をした時】
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- 寝坊をして駅まで小走りで急いだ。
- 会社の階段を駆け上がった。
- 【急な温度変化を感じた時】
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- 冬に温かい室内から急に外に出た。
- 夜中に寒いトイレに行った。
- 急性心筋梗塞の症状
狭心症がさらに進行し、冠動脈がつまってしまうと「急性心筋梗塞」という命にかかわる病気になります。動脈硬化を起こした冠動脈の内側に傷がつき、そこに血液の固まりができて血液の流れを止めてしまいます。心臓の筋肉に血液が通わないと、急速に腐って機能しなくなります。症状は狭心症よりはるかに強烈で30分以上~数時間続きます。
- 焼け火ばしを胸の中に入れられたような痛み。
- 胸の上に鉄の塊を置かれたような圧迫感。
周りの人から見ても、顔色は真っ青で、苦しそうで冷や汗をかいています。こういう状態になったときには、一刻も早く救急車を呼ぶべきです。急性心筋梗塞は一度起こってしまうと死に至る確率が30.40%と言う恐ろしい病気です。しかも、そのうち約60%の人が発作がおこってから2時間以内に命を落としてしまうといわれています。治療は1分、1秒を争います。たとえ救命できたとしても、心臓の力が弱くなってしまったり、不整脈に悩まされたりと心臓にダメージが残る場合があります。通常は、心筋梗塞を起こす前に「前触れ=狭心症」を自覚している場合が多いようです。発作の頻度が増えたり、痛みが強くなってきたら要注意です。
4. 早期発見・早期治療
心筋梗塞になる前の狭心症の段階で的確な診断と治療を受けることです。動脈硬化を強めたり、早めたりする危険因子には次のようなものがあります。
- タバコ
- 高血圧
- 糖尿病
- 高脂血症( 血液中のコレステロールや中性脂肪が高い)
- 肥満・運動不足
これらの危険因子に心当たりがあり、狭心症の症状らしきものがある方は、早めに医師に相談してみることをお勧めします。「早期の診断」と「的確な治療」と「患者さんの前向きな気持ち」があれば多くの心臓病は上手にコントロールできるものなのです。