1,000本の素振り

慶応大学野球部監督を務める江藤監督は、巨人、ロッテ、横浜でコーチを務めた経験を持つ。

その指導は2009年11月に始まった。
学生は、プロ野球ならではの、どんな斬新なことを教えてもらえるのかと期待していた。
ところが江藤監督は、ひたすらバント、素振り、ゴロ捕球をさせた。単調な練習の繰り返しは、チーム初のプロ出身監督に向けた期待感の反動もあり、選手の不満を呼んだ。

江藤監督は、それを無視して単純な基本練習を繰り返した。

12月後半、その年の最後の練習で初めてフリー打撃をさせた。
選手は喜々として打席に立ち、飛んでくるボールを思い切り振り抜いた。すると、これまで経験したことのない打球ののびに選手達は目を丸くした。

素振りを1日千本。
いつしかヘッドスピードの向上をもたらし、選手は基礎の反復の大切さを思い知った。

そして、六大学春季リーグで11季ぶりに優勝。5月31日の早大との最終戦で斎藤佑樹、大石達也らドラフト候補投手を打ち、前季まで神宮未勝利の投手陣が力投して6―4で勝利。江藤は歓喜の涙を流した。

慶応大学野球部の伝統のキャッチフレーズは
“エンジョイ・ベースボール”

江藤監督はこれを否定した。
つまらない基礎練習を徹底させた。
そして、優勝したパレードで選手たちに言った。

「みんな、これがエンジョイなんだよ」
※参考:『日本経済新聞』(2010.8.23付けWeb版)

研修の日々は病歴聴取、身体所見の診察、症例プレゼンテーションなどの繰り返しです。当直では多くの受診者に追われ寝ることも出来ません。決して派手な処置や格好良い手術の連続ではありません。でも、これが医師にとっての1000本の素振りになるのでは無いでしょうか?

基本の繰り返しには苦しみが伴いますが、大きく成長するために根を張る作業をしているのです。大きく成長し、どんな場面でも確実に対応出来る医師になるための過程なのです。

“生きるか死ぬかのギリギリの状況の中で、自分の判断・処置で人を助けられたと感じる場面”
その場面はいつやって来るかわかりません。でも、そんな基礎作りをやっていけば必ず経験出来るはずです。