2009年10月6日
知っていれば一発診断~運動後急性腎不全~
研修委員長 田村幸大
10月2日~3日は札幌東徳洲会病院に伺いました。
総合診療部の先生達と一緒に回診しています。
その中で17歳男性が腹痛で他院を受診した際に急性腎不全を指摘され紹介となった症例の相談を受けました。
病歴が不足している部分があったのですが、結局以下に示す運動後急性腎不全でした。
キーワードは「激しい運動後」「強い腰背部痛」です。
当院でも数例経験しており、決して稀な病態でも無いのでしょう。
知っていれば一発診断、知らなければ診断は難しいかもしれません。
ALPE(acute kidney injury with loin pain and patchy renal ischemia
after anaerobic exercise) (1)運動後急性腎不全 ALPE :
短距離の全力疾走など、激しい運動の後に、強い背腰痛を伴って発症する非ミオグロビン尿性急性腎不全(運動後急性腎不全ALPE)をいう。激しい運動に誘発される急性腎不全は、登山、マラソンなど、長時間の強度の運動によるミオグロビン尿性急性腎不全が知られ、この場合は著明な横紋筋融解が認められるが、ALPEは短距離の全力疾走のような無酸素運動の後に起こり横紋筋融解は軽度。
ALPEを①短時間の激しい運動後に起った急性腎不全。②血清ミオグロビン、クレアチニンホスホキナーゼ(CPK)はそれぞれ基準値の7倍以内、9倍以内
③激しい背腰痛を伴った急性腎不全 と定義する。
平均年齢は22才、男性が93%。かぜ気味で運動前に鎮痛、解熱剤を服用していたのは31%。
症状は強い背腰痛(平均5日持続)のほか、嘔吐・嘔気が94%、微熱が78%。
腎造影の数時間~数日後に単純CTで両腎の楔形の造影剤残存が特徴的で95%。
ミオグロビン尿性急性腎不全と異なり、血清ミオグロビン、CPKの平均値は正常範囲か、2倍程の軽度上昇。多くの例で低尿酸血症があり、腎性低尿酸血症はALPEの危険因子と考えられたと報告されている。
乏尿の頻度は18%で、大半は予後良好であるが、血液透析をした症例は約20%。
再発例は19%、腎機能低下は平均14日続く。
ALPEの認識は少なく、尿路結石、急性胃腸炎などとされ診断が遅れることがある。
添付の写真は当院の症例です。ALPEに典型的な所見です。
札幌東徳洲会病院循環器科の八戸大輔先生が当院で総合内科・透析研修中に経験しました。
このような疾患は一回でも経験していると次からは早く診断がつけられるようになります。
ウイリアム オスラー先生は、
"The value of experience is not in seeing much,but in seeing wisely."
「経験の価値とは、その数が問題なのではなく、いかに賢く経験するかが大切である。」
と語られたそうです。
とかく数の多さが問われがちですが、賢く経験する事で質の高さを追求する事も大切だと感じております。